"『新・現代思想講義 ナショナリズムは悪なのか』 の「反ナショナリズム」批判について"という記事にも書いたが、小熊英二の『〈民主〉と〈愛国〉: 戦後日本のナショナリズムと公共性』は戦後日本のナショナリズムをめぐる定番とも言える書籍であり、大著であるが是非多くの人に読んでもらいたい本である。
で、その中に日米安全保障条約の岸信介内閣による強行採決の様子が描かれており、なかなか(学術書とは思われない)臨場感のある記述になっている。
現在、岸の孫である安倍晋三内閣も、安全保障関連法案で野党と対立しており、強行採決が予想されるところであり、かつての歴史から学ぶものもあるのではないかと思って、すこし長いが以下に引用する。
しかし結局、社会党議員団は排除された。自民党議員たちは「ざまあみやがれ」「お前なんか代議士やめちまえ」といった罵声を浴びせながら、議場の入り口を破壊して入場した。清瀬一郎議長がマイクを握り、会期延長と新安保承認の採決を行うまで、わずか十五分ほどのできごとだった。
この強引な採決法は、じつは自民党内でも十分に知らされていなかった。清瀬議長も多くの議員も、会期延長だけの議決だと思っていたところ、岸の側近に促された議長が新安保採決を宣言し、一気に議決してしまったというのが実情だった。自民党副総裁の大野伴睦は、安保議決を議場ではじめて知らされ、岸の弟である佐藤栄作蔵相に抗議したところ「はじめから知らせたら、みんなバレちまうから」と返答されたという。
こうした岸の手法は、自民党内でも反発をよんだ。岸にすれば、安保承認には、自分の面子と政権延命がかかっていた。しかし、新安保が今後10年以上にわたって日本の命運を決定することは、賛否を問わず皆が承知していた。その重要条約が、このような方法で議決されることに抗議し、自民党議員二七名が欠席した。
その一人であった平野三郎は、こうした方法で「安保強行を決意するような人に、どうして民族の安全を託し得ようか」と岸を批判した。三木武夫や河野一郎も退席し、病気療養中だった石橋湛山は「自宅でラジオを聞いて、おこって寝てしまった」。議場突破の状況に反発して帰宅した松村謙三は、車中のラジオで安保可決のニュースを聞き、「『ああ、日本はどうなるのだろう』と暗然とした」という。
その前段の、社会党の対応なども含めて、可能であれば是非一読していただきたいが、この記述からも岸内閣時代に比べて、自民党の中の多様性が失われているという(よく指摘されることだが)危険性が感じとれるのではないか、と思う。
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