2017年11月4日土曜日

We-Fiファンド(イヴァンカ基金)への日本政府の出資は是か非か!?

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1.
 イヴァンカ・トランプ米大統領補佐官の来日に伴って世界銀行の「女性起業家支援イニシアティヴ」(通称 We-Fiファンド)に対して、日本が5千万ドル(約57億円)の支出を表明したことが議論を呼んでいる。
 例えば共同通信は以下のようなニュースを配信している

あいさつでは、トランプ米大統領の長女イバンカ大統領補佐官が設立に関わった、女性起業家を支援する基金への5千万ドル(約57億円)拠出を表明した。


こういった報道の仕方が、あたかもイヴァンカ・トランプが私的に設立したファンドに日本の公的資金を入れる、というふうに取られたからである。
 実際は、このファンドは先に述べた We-Fiファンドのことであり、もちろん運営は世銀が(その環境や倫理基準に従って)行い、イヴァンカが自由にできる資金というわけではない。



とはいえ、一方でこの資金には設立の段階から様々な問題点が指摘されており、海外の報道では議論になっていた。
 こういったことが問題として認識されず、騒ぎになって初めてその存在が認識される、というのも問題である。
 わたしが子どもの頃は「海外のニュースの報道がない」といえばアメリカ合衆国のことであったと思うが、情勢はすっかり逆転している印象がある。


ここでは、世銀・IMF体制そのものや、この背景である国連の持続可能な開発目標(SDGs)の方向性の是非は基本的に問わない、ということで議論を進める(もちろん、それらに問題がない、ということではない)。


そもそもの問題は、イヴァンカ・トランプがドナルド・トランプ大統領の娘であり、ファッション・ブランドのトップとして著名である一方で、何の政治的実績もないまま大統領補佐官に就任しているというところにある。
 つまり、トランプ政権は自国中心主義的、排外主義的であると同時に極端な縁故主義を特徴としており、政権中枢は政治経験があまりない財界人脈で占められている、ということであり、イヴァンカ・トランプ補佐官はそれを象徴するような人事であると言える。
 一方で、問題をややこしくしているのは、この間イヴァンカが政権内部でほぼ唯一と言っていい、国際協調主義者として振舞っている、ということである。
 SDGsのような国連のプロジェクトや気候変動問題に関しては、イヴァンカだけが熱心に取り組んでおり、大統領にその問題で進言することもあると伝えられている。


世界銀行に関しても、トランプ大統領は出資の削減を匂わせている。
 これに対して、世銀のジム・ヨン・キム総裁が打った手段がイヴァンカを広告塔に使った We-Fiファンドである。
 イヴァンカに活躍の場を与える見返りに、米国の世銀へのコミットメントを繋ぎとめよう、ということである。
 これは、おそらく資金的な問題ではない。
 世銀は理事会の議決権が出資額に応じて割り振られるため、中国やサウジアラビアなどがかねてから増資を望んでいたが、それらの国々の影響力増大を警戒した最大の出資国であり拒否権を持つ米国がそれを受け入れなかった、ということである。
 おそらく、米国が世銀から関心を失えば、中国がその地位を引き継ごうとするであろう。
 キム総裁はオバマ政権によって選出された韓国系米国人で、政治・経済の領域の人間が選ばれることが多い世銀総裁としては例外的に、長らく第三世界の感染症問題に取り組んできたリベラル(米国用法)な医師である。
 彼にしてみれば、トランプか習近平か、というのは中々辛い選択であったろうことが想像できるが、兎にも角にもトランプのつなぎとめを選択した、ということである。


しかし、政権中枢にあるイヴァンカが同時に独立性の求められる世銀のプロジェクトに関わる、ということに関しては、利益相反がないか、売名行為ではないか、といった批判が米国内外から噴出していた。
 こういった経緯を持っているWe-Fiファンドを単純に賞賛し、参加していいか、ということに関しては、本来議論が必要であろう(野党はそこも国会で議論することが必要だと思う)。


結局のところ、キム総裁やG20について兎角指導的立場を演じる羽目になっているメルケル首相らが抱え込んでいるジレンマは、イヴァンカ補佐官というトランプ政権の縁故主義の象徴を無視し、無力化すべきなのか、そうすることで「唯一の国際協調主義者」であるイヴァンカが力を失うことがトランプ政権の暴走をさらに加速させることになるのか、読めないということに尽きるであろう。


We-Fiファンドの最大の出資国はサウジアラビアになるとみられており、アラブの王族達がイヴァンカの訪問を諸手を上げて歓迎している、という構図も困惑を禁じ得ない。
 イヴァンカの夫のジャレド・クシュナーはユダヤ系実業家で、これも政治的実績なしに上級顧問に登用された「縁故主義」の例であると同時に、トランプ政権のイスラエル・コネクションを代表する人物である。
 この妻であるイヴァンカがアラブの王族達と談笑し、極めて女性差別的な社会制度を維持してきた彼らが「女性の社会進出」に賛成して見せる様は、何の茶番劇だろうと疑わざるを得ない。
 金が動くなら何でもいいのか、ある種のガス抜きが意図されているのか、極右同士の手打ちで奇妙な「女性の権利向上」がそれでも進むのか、少なくとも丁寧なモニタリングが必要である。

2.
 さて、これが国際的にみたWe-Fiファンドの状況であるが、先に述べた通り、安部政権がイヴァンカ来日を機にここに5千万ドルの出資を表明したことから自体が日本でも紛糾した。
 最初の論点は、安倍がイヴァンカの私的なファンドに出資したのではないかというものであり、これはすでに述べたように誤解である。
 また、イヴァンカの来日に際してお土産として5千万ドルを決めた、というのも誤解である。




 ただし、これらの誤解は必ずしもメディアの責任だけではなく、国際援助に関してはしばしばこういう「すでに決まっていた援助案件を、首脳の来日(あるいは相手国訪問)に際して発表し、二国間関係が良好であることをアピールする」ということが行われてきた。
 考えてみれば、数百億円のお金をいきなりあげるといわれれば、さすがにどんな国でも困惑せざるを得ず、援助案件は事前に事務方が詰めている訳である。
 特に、今回の案件はBuzzfeed の報道によれば先のG20ですでに決まっていた案件である。
 しかし、発表は例えば次のように行われるわけである。
 まず、安倍首相のスピーチを見てみよう。

自らもビジネスを立ち上げた実業家として,また,トランプ大統領が信頼する補佐官と して,イヴァンカさんは,本年のG20ハンブルグ・サミットで,「女性起業家資金イニシ アティブ」の立ち上げを主導されました。 日本は,このイニシアティブを強く支持します。そして,最大拠出国の一つとして,5 千万ドルの支援を行うことを決定しました。


次に、外務省の発表である。


安倍総理大臣から,イバンカ大統領補佐官が主導し本年のG20ハンブルグ・サミットで立ち上げられた「女性起業家資金イニシアティブ」(We-Fi)(英文)を日本として強く支持し,5千万ドルの支援を行うことを決定したことや,女性起業家が経済に与える好影響についての発言がありました。


これらは確かに嘘は書いていないが、「いつ決まった」かは曖昧にしてあるのが特徴である。


そして、みんなもう忘れているようだが、確かにバブル期までは、「来ていただいた首脳にお土産を持たせ、首相は面目を施し、日本が一等国であることの証明もされた」みたいな形で、こういった援助額がぶち上げられることを好意的に受け止める風潮はあったのである。
 それが、最近は長引く不況感、極右的な視点の台頭、それに援助をしなくても「日本が先進国なのは当たり前」といった慢心などが複合していると思われるが、開発援助に対する視点は年々厳しくなっている。
 一方で、政府とメディアは従来ながらの発表の仕方を維持している、ということである。
 開発援助の額を示されて、日本人のどれくらいが従来通り「立派な日本」に満足して、どれくらいが「日本人の生活も苦しいのに」と不満に感じるのかはよくわからないが、一つには政府がそういったマーケティングに失敗している、とは言えるだろう。


もちろん、GNIの0.7パーセントというのが先進国に課せられた開発援助の目標額で、現在まで日本は米国と並んでドベ争いを繰り広げている。
 質の向上は必要だが、同時に開発援助の総額は増やしていかなければ、地球は貧困と環境の問題で崩壊してしまう、ということはいくら強調しても強調したりない。
 その上で、開発援助が適切なものかどうか、というモニタリングは、政府と独立のジャーナリストやアドボカシー系NGOによって行われるというのが国際的に共有された枠組みであり、そこがほぼ完全に欠落した日本社会で、ファンドへの出資がいかなる回路で検証・正当化されるか、ということの議論も必要である。
 反発の仕方が適切でない面はあったかもしれないが、反発を呼ぶのは必然である、とも言えるわけである。


ここで重要なのは、この反発を、日本社会が国際問題を共有することから逃げる形で引きこもるような方向に導くのでも、また政府を賞賛して終わらせるのでもなく、国際社会で応分の責任を果たせるように、強い市民社会を作っていく機会にすることであろう。