2017年11月4日土曜日

We-Fiファンド(イヴァンカ基金)への日本政府の出資は是か非か!?

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1.
 イヴァンカ・トランプ米大統領補佐官の来日に伴って世界銀行の「女性起業家支援イニシアティヴ」(通称 We-Fiファンド)に対して、日本が5千万ドル(約57億円)の支出を表明したことが議論を呼んでいる。
 例えば共同通信は以下のようなニュースを配信している
あいさつでは、トランプ米大統領の長女イバンカ大統領補佐官が設立に関わった、女性起業家を支援する基金への5千万ドル(約57億円)拠出を表明した。

こういった報道の仕方が、あたかもイヴァンカ・トランプが私的に設立したファンドに日本の公的資金を入れる、というふうに取られたからである。
 実際は、このファンドは先に述べた We-Fiファンドのことであり、もちろん運営は世銀が(その環境や倫理基準に従って)行い、イヴァンカが自由にできる資金というわけではない。


とはいえ、一方でこの資金には設立の段階から様々な問題点が指摘されており、海外の報道では議論になっていた。
 こういったことが問題として認識されず、騒ぎになって初めてその存在が認識される、というのも問題である。
 わたしが子どもの頃は「海外のニュースの報道がない」といえばアメリカ合衆国のことであったと思うが、情勢はすっかり逆転している印象がある。

2017年9月14日木曜日

科研費特設審査領域「高度科学技術社会の新局面」

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今年度の科研費の公募を見ると、特設審査領域として「高度科学技術社会の新局面」という枠組みが提示されている。


 説明によれば以下のようなことらしい。

2017年6月27日火曜日

「左翼によるグローバリゼーション批判は消え去ってはいない」(ATTAC フランスのドミニク・プリオンへのインタビュー)

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 「その反緊縮とあの反緊縮は一緒ですか!?」という記事に多少関連して、1990年代後半から盛り上がった左派の反グローバリーゼション、反ネオリベラリズム運動について、それが右派に簒奪されたように見えている現状について、ATTAC フランスで長らく活動を続けている経済学者のドミニク・プリオンへのインタビューを訳出してみた。
 原文は”»Left-wing critiques of globalization have not disappeared« An interview with Dominique Plihon (Attac France) | The Great Regression”。

2017年6月22日木曜日

その反緊縮とあの反緊縮は一緒ですか!?

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 最近「日本の左派は反緊縮を唱えないからダメだ」という議論をよく聞く(例えば「なぜ日本の左派で反緊縮が主流になっていないのか? - Togetterまとめ」)。曰く、「欧米では反緊縮は左派の政策」であるらしい。これは果たして事実であろうか?
 率直にいうと、わが国で「反緊縮」を唱える人々のいう「反緊縮」(以下、反緊縮(日)とでも呼称しよう)と、「欧米では」と言われる時の欧米左派のいう「反緊縮」(同様に反緊縮(欧)と呼称しよう)は、もちろんかぶる部分はあるが、本質的には別物である。

2017年6月2日金曜日

「トランプ政権下アメリカの科学・技術と科学者: 全米科学振興協会(AAAS)年次総会での議論を中心に」『科学』2017年5月号掲載

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 ドナルド・トランプ大統領がアメリカのパリ協定離脱を表明しました。
 それに合わせて、というわけでもないのですが、ちょうど掲載誌発売からひと月経ちましたので、岩波『科学』2017年5月号に掲載されました「トランプ政権下アメリカの科学・技術と科学者: 全米科学振興協会(AAAS)年次総会での議論を中心に(PDF)」を公開します(岩波書店より頒布許諾済み)。
 (※他にも政治と科学に関する重要な論文が掲載されておりましたので、もし興味を持っていただいた方は、雑誌の方もご購入いただければ幸いです)


2017年5月29日月曜日

国連事務総長と安倍首相の会談に関する「誤報」について

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 産経新聞が、イタリアにおけるG7サミットに関して"国連事務総長が慰安婦の日韓合意に「賛意」「歓迎」 テロ等準備罪法案批判「国連の総意ではない」”という記事を配信している。
 要するに、韓国との「慰安婦問題」合意や共謀罪に対して国連において人権上の懸念が議論されていることに対して、それらの疑念を呈している機関が例外的な対応をしているだけだと主張したいらしい。


 それに対して、国連事務総長のサイトに「記者へのノート: 事務総長と日本の安部首相とのミーティングに関する質問への応答として」という記事が上がっている。
 この日本での報道が事務総長の意図を(読解力不足ゆえか、意図的かはともかく)捻じ曲げているということに懸念を表明しているものと言える。
 たいして長くもないので、以下に全文を翻訳しておく(国際政治上の定訳とかに詳しいわけではないので、間違いがあればご指摘いただきたい)。

記者へのノート: 事務総長と日本の安倍首相とのミーティングに関する質問への応答として

事務総長と日本の安倍首相とのミーティングに関する質問への応答として、報道官は以下のように述べた。


 シチリアでの会見において、事務総長と安部首相は所謂「慰安婦」の問題について議論した。事務総長はこの問題が日本と大韓民国の間の協定(an agreement)で解決される問題であるということに合意した。事務総長はいかなる特定の協定の内容についても彼自身の判断を下したものではなく、問題の本質と解決の内容を決定するのは二国間に任されているという原則を述べたものである。


 特別調査者に関して事務総長は首相に、特別調査者は独立した専門家であり、人権理事会に直接報告する、と述べた。


  こんなニュースは海外のメディアは追わないだろうし、産経新聞としては言ったもん勝ちだと判断したのかもしれない。
 典型的な「ポスト真実」手法というべきであろう。
 もちろん、こう言った形で日本のメディアしか見ていない人々をグローバルな文脈から切り離し、「わが国が正しい」という情報だけを与えるというのは、いかなる意味でも好ましくない。

2017年4月26日水曜日

辺野古の新基地は普天間基地の代替ではない

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(注: 公開後、タイトルを変更しました)

 ついに辺野古の米軍基地予定地の埋め立てが始まったと報道されているが、四月上旬、辺野古の海を見に行って、テント村の人や地元の市議さんに色々説明していただいた。
 短時間なのできちんと聞けたかどうかは分からないが、いくつか備忘録的にメモ。


1)
 テント村で説明してくれた人の「辺野古は普天間の代替案ではない」という表現が印象的だった。
 もともと、辺野古のキャンプ・シュワブはヴェトナム戦争中に機能強化が計画されており、これはヴェトナム戦争の泥沼化による戦費の拡大により断念された、という経緯がある。


 新辺野古基地は普天間に比べて滑走路が短く、今普天間が果たしている全ての機能を代替することはできない。
 一方で、現在、新辺野古基地はヘリ用の設備のほか、強襲揚陸艦が接岸できる270メートルの岸壁が計画されている。
 これはヴェトナム戦争時に計画され、米国の予算上の問題から放棄された基地計画の復活である。
 これを「普天間を使えなくする代わりに」日本政府が全て経費を負担して建設するということになるので、アメリカ合衆国にとっては非常に美味しい話、ということになる。


 また、普天間基地は「その機能が戦略上必須だから、辺野古に移転する」という話は成立しない。
 なぜなら両者に期待されている機能は根本的に異なるものだからである。
 滑走路自体は普天間のそれよりもだいぶ短いことから、現在空路で入れていた物資を海路に振り返るため岸壁を長くしたい、と米軍は説明している。
 しかし、輸送船だけであれば270メートルの岸壁は必要ではなく、強襲揚陸艦のためありきの設計である。
 また、キャンプ・シュワブには大規模な弾薬庫があるが、港も空港もない現在はここに置かれる弾薬は別の場所から沖縄に運び込まれ、陸路を輸送されている。
 港を新辺野古基地に建設することは、ここに本国からの物資を直に運び込むことができるようになる、ということであり、例えば現在は困難であると考えられている核配備を、再び米軍が行うのではないか、と社会運動側は懸念している。


 こう考えれば、新辺野古基地は、場合によっては核の配備まで含めた総合的な拠点になるはずで、普天間が使えなくなることにより必要になる代替設備という以上のものなのであり、これを日本政府の予算で建設することは「焼け太り」以外の何物でもないのではないか、ということである。
 また、こうした機能を持った基地がアジア・中東地域での戦争遂行に使われるであろうことを考えるのであれば、地元の環境・生業への影響だけでなく、日本政府による「アメリカの戦争」への加担を許すのか、という倫理的な問題でもある、ということになる。


 ちなみにテント村は「海上ヘリ基地建設反対・平和と名護市政民主化を求める協議会」(略称『ヘリ基地反対協議会』)が主体となっているが、この名称も当初「ヘリ基地が辺野古に来る」という前提から始まっているが、オスプレイ配備、港湾の設置やそれによる弾薬庫機能の拡充、強襲揚陸艦基地としての機能強化と続き、すでに適切な名称ではない(つまり、過小評価した名称になってしまっている)という点が悩まれるところだという。


2)
 また、キャンプ・シュワブは「ジュゴンのエサ場」としてもアピールされる通り、自然豊かな大浦湾の南端にある。
 北端部分には、沖縄を代表するリゾート施設である「カヌチャ・リゾート」がある。
 しかし、実は(地元の市議さんから聞いた話だと)カヌチャのビーチは毎年砂を入れているという。
 大浦湾の北側は南風の影響で、砂を入れてもすぐに流れてしまうのだという。

 一方、キャンプ・シュワブのある南側は天然のビーチに恵まれている。
 「一番いい土地は米軍が持って行ってしまう」と地元の人が嘆くわけである。


 今回、沖縄滞在中に多くの外国人をみた。多くは台湾や東南アジアからの観光客と思われるが、例えばロシア語も聞かれた。
 極東ロシアからであれば、沖縄は距離的にも近く、有力なリゾート地となりうるのかもしれない。
 もちろん、リゾート開発の環境負荷などの面も配慮されなければいけないが、軍事施設よりリゾートの方が環境負荷が高い、というものでもあるまい。
 沖縄には別の選択肢が示されるべきだろうし、それは全く荒唐無稽な話ではない。
 

2017年3月29日水曜日

全米科学振興協会(AAAS)年次総会の報告会について

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 AAAS年次総会参加のご報告は以下のとおりさせていただきます。

報告会

【東京】
・ポスト真実がやって来た!トランプ時代にどう変わる?アメリカの科学と政治
 日時 2017年3月31日(金)19:00〜20:30
 会場 カクタス・コミュニケーションズ
 共催 サイエンス・サポート・アソシエーション(SSA)
 [詳細]

【京都】
・サイエンス・サポート・アソシエーション研究会 AAAS(ボストン2017 年次総会)報告会
 日程: 04月01日 18:30〜(18:10 開場)
 会場: キャンパスプラザ京都 第一演習室
 [詳細]



なお、関連するるブログ記事は以下のとおりです。
AAAS2017(ボストン) 2月16日 (前半)
AAAS2017(ボストン) 2月16日 (後半)
ジョン・ホルドレン(前大統領補佐官)の語る、トランプ政権への対処法
ナオミ・オレスケス講演「科学者は衛視の役割を努めるべきか?」 (AAAS年次総会 2日目全体講演)
トランプ政権に抗議する野外集会"Stand Up For Science"

2017年3月2日木曜日

トランプ政権に抗議する野外集会"Stand Up For Science"

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 19日(土)の午後、AAASからは独立しているものの、併催するという形で、トランプ政権に抗議する野外集会"Stand Up For Science" ラリーが開かれた。
 これに参加するため、千人を超える人々が、思い思いのプラカードを掲げて、AAAS会場近くのコプリー広場に集まってきており、この情景は日本も含めたアメリカ内外で広く報道されたようである。
 当初の案内では短距離ながらデモも行われるのだと思っていたが、この時は10人ほどがスピーチする野外集会だけで終了した。

 基本的な視点は、科学者が真実と(AAASのテーマでもある)公共善のために立ち上がるべきだ、というものである。
 主催団体は、主に気候変動に関わる社会運動である climatetruth.org (これはAAASの全体講演でも講演し、またこの時もスピーチを行ったナオミ・オレスケスも顧問に名を連ねているNPOである)と、カナダの著名な社会運動家(日本でも『ブランドなんか、いらない』や『ショック・ドクトリン』などの著作で知られる)ナオミ・クラインが顧問を務める thenaturalhistorymuseum.org であり、この他に「憂慮する科学者同盟」やグリーンピース、地域の環境問題などを扱う学生団体が呼びかけている。

2017年3月1日水曜日

ナオミ・オレスケス講演「科学者は衛視の役割を努めるべきか?」 (AAAS年次総会 2日目全体講演)

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AAAS年次総会(2007)、二日目の全体講演は科学史研究者のナオミ・オレスケスによる「科学者は衛視の役割を努めるべきか?」 Should Scientists Serve as Sentinels? 。


 オレスケスはハーバード大学の科学史、および地球・惑星科学の教授である。
 「気候変動は嘘だ」や「タバコの健康被害はない」と言った「学説」がどのような科学者たちによって繰り返されているかと言ったことを論じた『世界を騙しつづける科学者たち』()という本を出版しているが、AAASでの講演もそれをなぞる話であった。


科学者の二つのあり方として「科学的に言えることしか言わない」という人と、気候学者のジム・ヘンソンのように逮捕されることも厭わず社会的価値を訴える科学者がいる、とオレスケスは述べる。
 オレスケスによれば、ヘンソンまで行かなくても、その中間形態として「責任ある科学者」モデルが必要である。
 少なくとも「科学的なことだけ言っていればいい」わけではない。なぜなら、そう言った科学者はしばしば「事実をして自らを語らしめる」と言いたがるが、実際は、事実が自らを語ることは期待できないからである。
 温暖化否定論やタバコの害はない、と言った議論に実績ある科学者がコミットするのはなぜだろうか?
 一つには産業界からの金、ということがあるが、それだけでは十分な説明ではない。むしろ彼らは自らの価値観のために事実を捻じ曲げている。



一般に、これら否定論者は政府の規制が増大することを嫌うリバータリアンである。
 この思想は通常ハイエクに起源を求められるが、レーガンがそれを都合よく利用した。
 否定論者の多くはこのレーガン人脈にいるのであり、彼らの目的は規制を緩和し、企業活動の自由度を上げることであり、そのために環境や健康規制の根拠となる研究に否定的な態度を示すわけである。

結論として
「我々の反対者は価値に動機付けられており、その価値は独立独歩であることを尚び、福祉的な問題であっても中央政府の介入を嫌うアメリカの草の根に広がる価値観と共鳴している。
 なので、我々(科学者)も価値を語らなければいけない」
 のである、とオレスケスは述べる。

その(科学の)価値とはフェアネスやアカウンタンビリティ、現実主義、創造性、と言ったことで、これらが「市場」の価値に対抗できるのだ、というのがオレスケスの結論。
 お行儀のよいAAASの講演では珍しく、多くの人がスタンディング・オヴェーションで講演を讃えていた。

AAAS2017(ボストン) 2月16日 (後半)

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帰国してしばらくたちますが、なかなかご報告が進んでおらず申し訳ありません。
とりあえず、「AAAS2017(ボストン) 2月16日 (前半)」の続き、初日後半についてのご報告です。


AAASの年会は週末を通して行われるが、その間、四回の「全体講演」が行われる(一番大きい会場で行われ、その間は他の会議は行われない、という程度の意味である)。
 初日の全体講演はAAAS会長のバーバラ・シャール教授(ワシントン大学セントルイス校アート・アンド・サイエンス学部長)によるもの。

 トランプ氏の言動に当てつけたわけではないだろうが、司会(AAAS前会長ジェラルディン・リッチモンド氏)、紹介講演(ブラウン大学学長クリスティナ・パクソン氏)、そして今回から会長に就任するシャール氏の主要登壇者三名とも女性である。
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 リッチモンド氏からは、AAASが出している中東7カ国からの入国を制限する大統領令への批判など、トランプ政権が国際的な文化交流や学問の自由と進歩を阻害するような政策を打ち出していることへの批判があった。
 特に、(学術出版大手の)エルゼビア社による、第三世界諸国のキャリア初期女性研究者を懸賞する賞では、バングラデシュなどの5人の研究者が受賞したが、このうちスーダン科学技術大学のラニア・モクタル氏がトランプ大統領による中東・アフリカ七カ国からの入国禁止令によってアメリカに入国できなかったことが告げられた。
 また、これの大統領令に対してAAASが「科学の進歩は公開性、透明性、アイディアの自由なやり取りに依存している。そしてアメリカはこれらの原則によって国際的な科学的才能を引きつけ、またそこから利益を得てきた」として抗議声明を出したことにも言及された。
 また、そういった中でAAASの会員はかつてない急増を見せており、今年に入って9000人が加入したこともアナウンスされた。

2017年2月19日日曜日

ジョン・ホルドレン(前大統領補佐官)の語る、トランプ政権への対処法

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 NHKでAAASの分科会の一つの様子が「米の科学者たちがトランプ政権への対応話し合う」として報道されているようです。
 これは、「憂慮する科学者同盟」が組織した”Defending Science and Scientific Integrity in the Age of Trump” (トランプ時代に、科学と科学の健全性を守る)と題する分科会で、オバマ政権下でアメリカ合衆国科学技術政策局のトップだったジョン・ホルドレン氏らが講演しました。
 司会者は「憂慮する科学者同盟」として過去何度もAAASのワークショップを主催しているが、開始15分前には全ての椅子が座っていた、なんていう経験はしたことがない、と会場を笑わせていましたが、これもトランプ政権への危機感の表れでしょう。


 ホルドレンのコメントはニュースでは「科学者自身が社会での科学の役割についてわかりやすく伝えるべきだ」というふうにまとめられていますが、この部分をもうちょっと細かく追うと、だいたい次のようなことを言っていました(他の分科会でもだいたい同じようなことを言っていた)。

一つ、決して絶望したり怖気付いたりしないこと
二つ、いつもの通り研究を続ける、ファンディングなどのコミュニケーションも続けること
三つ、それに加えて、いつも以上に幅広く科学と社会の問題に関する情報を入れるようにすること
四つ、何故、どのように科学が重要なのか、科学がどのように機能するのか、なるべく沢山の人に語り続けること
五つ、時間の10パーセントをパブリック・サービスに使うこと。政策決定者への働きかけとか、政治参加といったことから学べることもある。


2017年2月17日金曜日

AAAS2017(ボストン) 2月16日 (前半)

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 AAASボストン年会初日である。
 まず、会場について登録を済ませる。
 登録は、事前にメールできていたバーコードを読み込むだけで、ネームカードが印刷されるので、カードフォルダーを受け取っておしまい。
 あと、大会プログラムの入ったバッグを各自で勝手にとるだけ。
会場では Wifi が使える(特にパスワードは必要がないようなので、参加者以外でも使えてしまう感じ)。
 これと、モバイルアプリ(プログラムなどが読める)はEUの提供のようである。
 毎年EUはAAASの大会に資金を使って、いろいろなことをしている。
 研究者への宣伝ということなのだろう。


 そのまま、”How to Connect Science with Policy across the Globe: Landscape Analysis” というセミナーへ。
 椅子の数が足らないというところもあるのだが、ほぼ満席である。
 こちらでは、各国の科学者による政策提言を促進する仕組みなどが紹介された。
 事前のプログラムでは詳細はわからなかったのだが、日本からは政策研究大学院大学の角南篤教授が登壇している。
 さて、昨日述べた通り、前回は2007年に参加している。
 その後、当時榎木英介氏らとやっていたンポNPO法人でイベントなどを行い、AAASについて色々紹介したつもりであるが、その中の一つにフェローシップ・プログラムがある。
 これは、博士号を取得した若手の研究者を、AAASが資金を提供して政策機関(政府機関、各党議員の事務所、シンクタンクなど)に派遣し、科学技術に絡む問題に関する政策立案の訓練を積んでもらう、というプログラムである。
 参加したフェローはその後、研究に戻ることもあるし、民間に行くこともあり、またもちろん政治の世界にとどまることもある。
 何れにしても、産政学あるいは産官学の橋渡し役となるわけである。
 一時期、日本でもこうしたプログラムを実施しようという動きはないわけではなかったが、角南氏がプレゼンの中で述べたように日本の政治風土の問題があり(フェローが結局はコピー要員としてしか扱われず、キャリアに繋がらないと言ったことがあり)、今ひとつうまく行っているとは言い難い。


しかし、今回知ったことだが、日本以外の各国では同様のプログラムが実装されるようになっており、AAASが主導して世界的なネットワークが構築されつつある、ということである。
 なぜ日本ではこうした改革が行われにくいのか、考えてみる必要があるだろう。



 午後はまず "Engaging Scientists and Engineers in Policy (ESEP) Discussion" へ。
 形式としては、講演者は10人弱ぐらいで、科学技術コミュニケーションやアドボカシーの実践者。
 若手が多いが、シニアもいる。
 男女比は半々ぐらいで、エスニック・マイノリティに属する若者もいる。
 これらの人々が、簡単に自己紹介をした後はすぐに会場からの質問を受け付けるという、ライヴ感溢れる進行になった。
 質問する側も、ジェンダーや年齢のバランスが取れているという印象を受け、多文化主義的な空間が構築されている。
 ここだけを見れば「トランプのアメリカ」はどこに行ったのだろう、ということになるが、逆に言えば「ここではない半分」はここからは見えない、ということでもあるだろう。


 その後、引き続き同じ会場で "The Online Scientist: Social Media and Public Engagement" という文化会が行われた。
 ここでは科学者がSNSなどを通じてプレゼンをすることの意義、問題、ノウハウなどについて議論された。
 ノウハウとしては、例えば Facebook だと閲覧数はすごいがビデオなどは最後まで見てくれないが、動画配信サイトであれば科学ニュースに関心のある層は最後まで見てくれる可能性が高いので、Facebookで広報して、Youtube や vimeo でコミュニティをつくっていく努力をするのがいい、といった話などが紹介された。



 また、この日は "Lab Girl"という自伝的小説を書いた Hope Jahren 氏のサイン会も行われていた。

2017年2月16日木曜日

AAAS2017参加雑感 その01

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 ところで、大きな会議なので(最近時々見ますが)モバイルアプリが配られています。
 気になったイベントはどんどんお気に入りに入れて行くと、勝手に自分のスケジュール帳ができて行く、という感じです。
 プログラムやもらった資料の束を抱えて移動することを考えると大変便利。

 でも、調子に乗ってお気に入りを増やして行くと、こんな感じになってしまって、あまり意味がなくなる、という↓ 

AAASの年会のため、ボストンに来ています

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 サイエンス・サポート・アソシエーションのサイトのお知らせ「AAAS参加と、科学技術政策に関する調査・提言機能の強化のためのご寄付をお願いします」にあります通り、明日からの全米科学振興協会の年次総会に参加するため、ボストンにやって来ています。

 前回ボストンで行われたのは2007年で、まさに大統領選挙が行われる年であった。
 そのため、会場でも民主党の候補がバラック・オバマになるかヒラリー・クリントンになるかが話題になっており、両陣営の科学技術政策担当者による討論会が急遽企画されたりしてた。
 それも含めた、前回の報告記事は以下の通りです。

 アメリカという国は良くも悪くも政権が交代すると、上級の公務員が政治任用で大きく入れ替わり、政治が大きく動く国である。
 この8年間、研究開発にも環境保護にも比較的積極的なバラック・オバマの元で、科学者は良い時代を過ごしてきたと言える。
 しかし、新しく大統領になったドナルド・トランプは様々な問題でオバマ大統領の方針を覆すと言われています。
 その中には、気候変動問題のように、単にアメリカ一国にとどまらず、世界中の人々が影響を受ける問題も含まれています。
 こういった中で今「科学を振興する」ということがどう論じられるのか、みてきたいと思っています。


 なお、以下の通り、Youtube Live をしてみようかなと思っています(ネット環境が耐えられるのかとか、コンテンツが集まるのかとか、不安材料は多いわけですが…)。
 日本時間の午後20時、ということになるはずです(あってる??)ので、宜しくお願いします。


2017年1月21日土曜日

科学とデモクラシー: アメリカ大統領選雑感

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 バラック・オバマが大統領に就任した2009年の夏も過ぎ去ろうという頃の話である。科学技術とデモクラシーについての研究と実践を行っている、つまりどちらかというと左派系のアメリカ人に、ヨーロッパで行われたあるプロジェクトの会議で一緒になった。
 「今、そちらのシンクタンクは何人ぐらいで回しているんですか?」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。

2017年1月8日日曜日

ウゴ・チャベス その革命と失敗

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 先の「"脱成長"議論のためのメモ」で「ベネズエラ経済の失敗」という言い方をしたので、そのあたりについて自分の見解を整理しておく必要があるかな、とおもいまして、記事を書いておきます(いつものことであるが、さくっと書くつもりが、長くなった…)。


1. 南米主要国の政治潮流
 現在、南米主要国の政治は三つの潮流に分かれている。
 第一のグループは、南部にあるチリ、アルゼンチン、ウルグアイにある、中道左派が主導する政権が存在する地域である。
 かつて「アメリカ合衆国の裏庭」と呼ばれ、親米右派ががっちりと支配していたこの地域でも、21世紀に入って次々と左派政権が誕生したが、この中で第一グループの国々は、比較的所得や識字率が高く、また文化的均質性が高い(これは、この地域の先住民は多くが虐殺されて消滅した、ということでもある)。
 このうちアルゼンチンとチリは選挙による中道右派と左派の政権交代が見られるようになり、ウルグアイだけはバスケス→ムヒカ→バスケス、という左派のタンデムが続いているが、国内情勢は安定しており、いずれはここも政権交代を行うようになるだろう。

 一方、北部の国々は相対的にGDPが低い。
 その中で、コロンビア、ペルー、パラグアイといった国々は、現在でも親米的な中道右派政権が支配を続けている。
 また対照的にベネズエラ、エクアドル、ボリビアは極左政権が誕生し、現在も支配を続けている。
 パラグアイも2008年、カトリック司祭で「解放の神学」派のルゴ氏が還俗し、大統領選挙を制したが、この政権は2012年に議会による弾劾を受け崩壊、2013年からは右派のコロラド党が政権に復帰した。
ボリビアは先住民の多い南米最貧国だが、先住民運動から出発し、水道の民営化反対運動などで脚光を浴びたエボ・モラレス大統領が、初の先住民系大統領として2005年の選挙を制した。
 エクアドルは左派の経済学者であるラファエル・コレアが2006年に大統領になっている。
 そしてベネズエラであるが、これの国々に先駆けて1999年にウゴ・チャベスが当選している。

 そして、南米最大の国家であり、また唯一のポルトガル語国家でもあるブラジルに関しては、2002年に労働者党のルラ大統領が誕生している。
 ルラ政権は、思想的には上記の極左系に属するが、しばしばチャベスらのグループと南部の穏健左派グループの中間的な位置を占め、アメリカや西側諸国との外交チャンネルも維持するなど、中間的な立ち位置にとどまってきた。
 ルラ政権も憲法規定通り二期で退陣し、後継候補としてジルマ・ルセフ官房長官を指名した。
 ルセフも順調に当選し、同国初の女性大統領となったが、昨年(2016年)弾劾を受けて政権を連立を組むブラジル民主運動党党首で、副大統領であったミシェル・テメルに譲った。

 全体としてみれば南米はかつてのようにアメリカが支配圏を誇示できる状態ではないが、一方で2010年ごろを境に、中道左派から極左系の政権が勢力を誇った状態からは徐々に揺り戻している。
 この状態がなぜ起こったか、ということが本論の焦点である。

2017年1月4日水曜日

「脱成長」議論のためのメモ

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 日本ではあまりアカデミックに脱成長を研究している論者がいない一方で、反脱成長論のほうが声が大きい印象がある。
 ただ、この双方は大概の場合、論点がかみ合っていない。
 要するに「成長」支持派はGDPが持続的に増大していくことが大事だと言っていて、それは資本主義というものが「成長産業に資本を投下して、投下した資本が増えて戻ってくる」ことを期待する投資家が投資先を探す、というモデルで作られているから、そこが機能しないと資本主義社会そのものが法界するじゃないか、という危惧を抱いているのであろう。
 (そもそも我が国で「資本家」がリアル・エステートを担保に取らなくても「成長産業を探して投資する」なんていう資本家としての役割を放棄しているからの低成長なんじゃないのか、というツッコミはあり得ると思うが、ここではグローバルな資本主義社会の問題が論じられているということで、置いておく)
 一方、脱成長派は主に「環境の限界」を懸念している。
 人類経済の成長は、環境からの収奪によって成立してきており、先進国ではこれ以上の収奪は生活レベルを上げない上に、地球環境という我々の生活を支える土台そのものを突き崩しているのではないか、ということである。
 なので、脱成長派としては「環境負荷が増大しない形でGDPが上昇したとしても、それは<脱成長>という理念と不整合は起こさない。ただし、そういったことはあまり起こりそうにない(/不可能である)」と考えている、ということになる。
 例えば、指標としのてGDPは不十分だということで、GDPから環境影響(外部経済)を引いた指標を作り、その指標の上昇にインセンティヴが働くようなグローバル経済を構築する、といった「改善案」は考えられる。
 ただ、こういった考え方は「脱成長」原理主義者がいれば、それは改良主義に過ぎないと批判されるだろうし、「成長」原理主義者からもあまりいい反応は得られそうにない気もする。
 それに、そもそもそういった構造を構想することは大変難しい(マルクスやケインズ級の「大経済学者」の登場が待たれるところである)。
 とりあえずは国際的な環境課税の制度をつくってしのぐ、というのは当面の目標になるだろうが、おそらくそれだけでは十分とは言い難いだろう。
 成長主義者は「GDPの成長と環境保護がニュートラルないし相乗効果を得られる経済領域はいっぱいある」と主張するかもしれない。
 特に相乗効果が得られるところが「グリーン・エコノミー」と呼ばれるが、はたしてグリーン・エコノミーが世界経済を支えられるほど大きくなるか、というのも疑問である。
 ニュートラルな経済になりうる領域の例として、情報、サービス、イノベーション産業などが考えられる。
 昨年、『認知資本主義』という本の出版に関わらせていただいたが、これはまさに「認知資本主義」の領域の話である。

 しかし、これらの産業は富の偏在を加速させるのではないかという疑念を払拭できない。
 かつて、アンディ・グローヴなども述べていた通り、典型的なテック企業は収益あたりの雇用者数は伝統的な工業より少なく、また技術が進むごとにその傾向は加速する。
 もちろん、Apple のような企業がFoxconnに代表されるアジアの企業に委託している分を含めれば、グローバルには少なくない仕事が生じているわけだが、この部分は伝統的な「環境影響を無視できない伝統的な工業」である。
 また、かつてフォードやトヨタで働く工場労働者は「熟練工」として扱われたが、技術の発達によってこれらの人間が行う作業は非熟練労働としての側面を強め、賃金はそれにともなって低下している。
 この先、さらに技術がいらなくなるのか、そもそも人そのものがいらなくなるのか、いずれにしてもイノベーション部分を担う「高級人材」と、それ以外の人材の給与格差が(なんらかの介入がなければ)拡大するという予測されよう。
 (また実際は、ちょっとした「名声」の差で、認知的生産を担う人材の間の格差も容易に増大する)
こう考えると、我々は、成長、環境、再分配(/労働分配率)というトリレンマを抱えているように思われる。
 成長を環境負荷の少ない経済領域に特化して行うことは可能に思われるが、その場合は労働者一般の所得は犠牲にされるであろう。
 成長を伝統的な工業の振興で行うことは、少なくとも一国レベルではある程度追求できるかもしれない(このあたりはトランプ政権が挑戦することになるだろう)が、その場合は環境に大きな負荷がかかる(また、グローバル経済にも大きな負荷がかかるかもしれない)。
 だとすれば、最後の環境と再分配を重視するという選択肢は可能だろうか?
 おそらく「脱成長」はここを重視している、ということになる。
 これは、三つの選択肢の中では、おそらく最も困難な道であるが、例えば地域通貨や連帯経済といった手法やキャッチフレーズにはこの目的がビルトインされている。
 ただ、「連帯」経済といったときに明らかなように、この分野はある種の社会的信頼(社会関係資本と言い換えてもいい)が不可欠である。
 一方、現在のグローバル経済はこの「連帯」を徹底的に排除するような、相互不信の極大化によって維持されている。
 この転換が容易ではないことは明らかであり、もしかしたら不可能かもしれない。
 (ブラジル労働者党政権の崩壊やべネズエラ経済の失敗を見れば、南米の左派政権はこの部分に挑んだが、総じてみれば退潮期に入っているように見える。一方、ポデモス、シリザ、コービン労働党や大統領選におけるサンダース旋風は、この流れを先進国が引き取って進めるときである、という可能性を示唆しているようにも見える)
 アイディアとしては、衣食住や日常的な楽しみ(イヴァン・イリイチのいう「コンヴィヴィアル」な領域)は定常経済で維持し(グローバルにはわざと互換しにくくした地域通貨と、エクアドルとベネズエラが提唱していたような貿易を管理する新国際通貨などで担い)、認知資本主義領域はグローバル通貨(Bitcoin的なものになるかもしれない)で行い「贅沢をしたい人は後者を稼げる」みたいなモデルは構築可能かもしれない。
 まぁ、いずれにしてもいろいろな可能性があるので、「脱成長」研究というのは今後注力が必要であり、政策的意義も環境課税などの領域に認められるべきであろう、と思う一方で、「脱成長路線でいけば問題はないので、労働運動や財政出動が必要なくなる」という段階ではないのも明らかである…というあたりから議論を始められないものだろうか?
 

2017年1月2日月曜日

お餅が旨い

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毎年、新潟の弥彦もちというのをもらうんだけど、これが、味も舌触りも滑らかで、きちんと腰があって、お雑煮などに入れても煮崩れせず、まあ、パックの切り餅ではちょっとあり得ないぐらい美味しいのである。
で、毎年、せっかくなら自分でも少しは購入しようとウェブサイトを見るのだが、米の時期しか生産してないのか、正月には大体売り切れ、と言うことで、まだ購入できた試しがない。ってことで、毎年、正月早々、自分の忘れっぽさを思い出すわけだ。

…今年こそは年内にサイトを見よう。

2017年1月1日日曜日

明けましておめでとうございます

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Safari to the Lake Nakuru National Park