2015年7月20日月曜日

短期的な軍備増強より、恒久的和のための無数のステップを着実に

このエントリーをはてなブックマークに追加
恒久平和ないし永遠平和についての議論で、我々はカントに多くを負っている。
 カントは「恒久平和は、空虚な理念ではなく、漸進的に解決されて目標に絶えず接近していく課題である」と考えていた。
 カントの議論から二百年以上を経て、我々はこの問題に関して、たいした進歩があるように見えないかもしれない。
 しかしながら、議論は着実に重ねられており、それなりの進歩も重ねられている。
 例えば第二次世界大戦の処理はそれまでの帝国主義戦争の処理の「失敗」を反映したものだし、世界人権宣言はそこで求められたものの多くを反映している。
 また、近年では1998年の国際刑事裁判所の設置があげられるであろう。

近隣諸国の脅威に対応した軍拡は、いわば対処療法のようなものである。
 軍拡には、相手も軍拡を持って応じるのであり、両国の軍拡はとどまるところを知らないであろう。
 こういった、ポジティヴ・フィードバックのシステムを、文化人類学者グレゴリー・ベイトソンは「中毒」と呼んだ。
 軍拡は、文明の生む典型的な中毒症状である。

2015年7月5日日曜日

現実の危機としての「徴兵制」

このエントリーをはてなブックマークに追加

 徴兵制の現実性が話題になっている。
 自民党が出した「ヒゲの隊長」こと、佐藤正久参議院議員をつかったアニメーションは、「徴兵制は絶対にありえない。だって――」と言いかけたところで会話が終わっていて、理由が示せないのか、かえって不信感を煽る、という意見が出ている。


 一方で、民主党側の「子どもたちのみらいのために」というパンフレットは、解釈改憲によって徴兵制も可能性が出てきた、と主張しているが、これにも合理性などの観点から批判が出ている(たとえば池田信夫氏の「日本も徴兵制になるの?」)。
 実際問題として、「合理性」を理由にして徴兵制の可能性を棄却するののいくつかの意味で無理筋であり、少なくとも現段階では、将来世代において自分の意思に反して兵役につくことになる子どもが出てくるという可能性は、決して荒唐無稽なものではない。

2015年7月4日土曜日

ギリシャ国民投票に注目すべし。これは経済ではなく、政治の問題である。

このエントリーをはてなブックマークに追加

 他国の国民投票で、どちらに入れるかを外野からごちゃごちゃいうのはお行儀のいいことではないかもしれないが、日本のマスメディアはあまりに非難一辺倒なので、すこし論じてみたい。
 まず、誤解がある気がするのは、ギリシャはすでに2010年以降、IMFの緊縮プログラムを受け入れてこの状態ということである。
 その間、トロイカ(IMF、欧州委員会と欧州中央銀行)は4.5パーセントの財政黒字(利払い前)を要求し(チプラスの要求によって、これは3.5パーセントまで下がった)、政府支出は30パーセント以上削減され、その結果としてGDPは25パーセント低下した。
 大規模な年金や公務員の削減や、それに伴う失業は、基本的に緊縮策の結果である。
 その間、トロイカからやってくるお金は国内の生活と経済をよくするためにはほとんど使われず、9割がギリシャを素通りして外国の金融機関に支払われた。
 緊縮プログラムを受け入れる(Yesに投票する)というのは、これがさらに数年続くということである。

 おそらく、投票結果が Yes だった場合、チプラス首相は辞任することになる。
 ギリシャ憲法に詳しいわけではないので詳細は分からないが、選挙をしている時間はなさそうだし、おそらく大統領は第二党である新民主主義党(中道右派政党)党首であるサマラス前首相に、組閣を要請することになるだろう。
 Syrizaと連立を組んでいる小規模政党「独立ギリシャ人」がどう決断するかで情勢は若干変わってくるが、新政権が過半数を上回ることはなさそうなので、基本的にはサマラス政権の役割は、緊縮政策の受託表明と、選挙管理にとどまるであろう。
 仮に比較的政権がながく続けられたとしても、せいぜい今年いっぱいである。
 その間、緊縮政策は続けられるわけだから、税収はさらに落ち、不況はさらに深刻になる。
 第一党である Syriza が新政権にどういう態度をとるかは不明だが、国民投票の結果がよほど大差でなければ、新政権に協力的になるのは難しそうである。

 したがって、不況が深刻になる中、ギリシャは再度総選挙に挑むことになる。
 その場合、既存の二大政党にも失望し、また急進左翼連合(Syriza)にも失望した国民の支持の相当数を吸収するのは、極右「黄金の夜明け」である。
 黄金の夜明けの対外的な強行性(トルコやマケドニアに対する)がどの程度真実かは分からないが、少なくとも国内の少数派や移民の置かれる立場は急速に悪化するであろう。
 また、「黄金の夜明け」の手によってギリシャがEU離脱をするというのは、欧州委員会にとってSyriza政権が続くより好ましい状況なのか、というのは深刻に問う必要があある。
 少なくとも我々が、第二次世界大戦がドイツが深刻な不況に置かれ、そこから英雄ヒトラー待望論が生まれたという歴史に学んでいないことになるだろう。
 (ギリシャは小国で、世界のパワーバランスに対する影響は軽微だから問題ない、というのではあまりに無責任というべきではないか)

 では、Noの場合はどうなるだろうか?
 スティグリッツらが述べるように、これは多少マシなシナリオになる可能性を含んでいる。
 ギリシャはデフォルトすし、ユーロ圏から離脱することになるだろうが、デフォルトした国が立ち直ることは十分にある。
 最近ではアルゼンチンがそうである。
 ただ、アルゼンチンに対してはブラジルら周辺諸国の配慮が相当あったが、こういった配慮をするのがEUか、あるいは「新しい友だち」としてロシアや中国が立ち現れるのか、というのは定かではない(結局のところ、EUにとっての選択肢は「デフォルトし、ユーロ離脱を決める前に支援するか、そうなったあとに支援するか」ということでしかないのではないか?)。

 これまで、ギリシャの国家運営は極めて野放図であったという指摘もある。
 しかし、これは、ギリシャの寡頭政治のせいであったということを忘れてはならない。
 ギリシャの政治は典型的な二大政党制だが、それは理念による対立というよりは、左派の大物(パパンドレウ家を中心とした)と右派の大物(カラマンリス家を中心とした)のどちらがより子分を多く集めるか、という政局を軸に行われてきた。
 そのさいに(第三世界によくあるように…ただ、もちろん我が国の政治もにたようなものであるが…)有権者に関する利益分配を競うということが行われた。
 有権者と候補者が、利益分配によって結ばれる「クライエンタリズム」と呼ばれる政治形態である。
 それに対して、Syriza は市民社会によって担われた政党であり、Syriza 政権が確立したこと自体が、ギリシャがクライエンタリズムとそれに伴う野放図な財政から脱却できる可能性を示唆している。

 つまり、これは経済ではなく政治の問題である。
 国際社会は、ギリシャが、クライエンタリズムに戻るのでもなく、またファシズムに落ち込むのでもなく、市民の手で方向を決めていくことのできる政治体制を選ぶことで未来が開けるような形で支援するべきだ、ということである。
 しかし、現実的には、特に欧州の首脳たちは、「話せる」かつての仲間、あるいはコントロールしやすい指導者(全ギリシャ社会主義運動と新民主主義党という二大政党の指導者たち)がギリシャの支配圏を取り戻し、欧州委員会によって都合のいい小国でありつづけることが、ギリシャの市民生活やデモクラシーよりも重要であると考えているようにしかみえないのである。
 「ギリシャ問題の解決」とは、大国の首脳たちの、こういった態度を変更させ、ギリシャのデモクラシーを尊重することであり、そういった目的にそう形で「支援」が行われるべきだろう。

link:
ギリシャ債務に関するEU市民の嘆願書とQ&A [原文] [日本語訳]

2015年7月2日木曜日

将来、自衛隊が捕虜になると…

このエントリーをはてなブックマークに追加


 この辻元議員の質問は大変的確な問題を指摘しているように思う。

時事ドットコム:後方支援時の拘束「捕虜に当たらず」=岸田外相

 岸田文雄外相は1日の衆院平和安全法制特別委員会で、海外で外国軍を後方支援する自衛隊員が拘束されたケースについて、「後方支援は武力行使に当たらない範囲で行われる。自衛隊員は紛争当事国の戦闘員ではないので、ジュネーブ条約上の『捕虜』となることはない」と述べ、抑留国に対し捕虜の人道的待遇を義務付けた同条約は適用されないとの見解を示した。
 拘束された隊員の身柄に関しては「国際人道法の原則と精神に従って取り扱われるべきだ」と語った。辻元清美氏(民主)への答弁。 (2015/07/01-18:27)


 要するに「国際法」とは基本的に(憲法に相当する成文法はないわけで)慣習法の集大成なわけで、過去のいろんな事例から一般法則が積み上がっているわけである。
 そういった中で、一国だけ「自国の法律的な特殊事情」を理由に、違った動きをされても、国際法が想定する状況との齟齬が生じるわけで、他の当事者は(仮に誠実になろうとしても)困惑するしかないわけである。
 例えば、(中東あたりに派兵したみたいな状況を考えると)次のような状況が想定しうる。
 
某国「我が国の国境内で”イッタイカ"した"コーホーシエン"なる活動に従事していると主張している、日本所属の"ジエータイ"と名乗る、正規軍の武装をした一団を捕獲したが、貴国所属の軍隊に間違いはないか?」

日本「それは我が国の自衛隊で後方支援に従事していて、正規軍の武装をしているが、正規軍でもないし、軍事活動にも従事していない」

某「? 正規軍による軍事活動ではないということは、我が国に敵対する諜報活動に従事していたということか?」

日「諜報活動でもないし、貴国に敵対するものでもなく、あくまでアメリカを中心とした多国籍軍への後方支援である」

某「?? コーホーシエンというのは、兵站活動のことか? イッタイカという用語の国際法上の意味はなにか?」

日「兵站活動は軍事行動であるが、我が国の自衛隊が担っているのは、あくまで武力行使と一体化した一体化した後方支援であり、軍事活動ではない」

某「??? 軍事活動ではないなら、我が国に対する多国籍軍の指揮下にはなく、貴国が独立して行動しているということか?」

日「後方支援であるから、あくまで多国籍軍に協力した活動である。彼らは日本の法律に基づいて活動している。」

某「???? 指揮権、つまり彼らを我が国の支配領域に進行させた責任はだれにあるのか? 我が国はこれらの捕虜の処遇等について、どの国と交渉すべきであるか?」

日「我が国は自衛隊が軍事活動に従事していたのではないと考えているため、彼らはジュネーヴ条約における戦時捕虜ではないと考えている。ただし、我が国としては彼らが"国際人道法の原則と精神に従って取り扱われる"ことを期待する」

某「????? 重ねて聞くが、捕虜交換等の交渉は貴国と行うべきか?」

日「彼らは捕虜ではなく、また我が国は貴国と戦闘状態にある紛争当事国ではなく、貴国の兵士を捕虜に取ることもあり得ない」

某「?????? では、我が国は彼らをスパイとして我が国の国内法で裁判にかけ、場合によっては死刑に処することもありうるが、それでよいか?」

日「我が国は我が国の自衛隊が、"国際人道法の原則と精神に従って取り扱われる"ことを希望する」

某「???????????????????????」


 …アッラーもお困りだわ。

 …もちろん、これはシロウトの妄想なので、どうやったらこの状況で敵国に捕虜じゃない捕虜が"国際人道法の原則と精神に従って取り扱われる"ようにできるか、防衛省にきっちりシミュレーションしていただだきたいものである。
 いずれにしても、今、国会で行われているようなコンニャク問答が、紛争状況で敵国とも可能だとおもう発想こそが「平和ボケ」と言われてしかるべきなのではないか、と思わざるをえない。