2015年5月21日木曜日

太地町のイルカ追い込み漁を水族館が利用することの是非について

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某所にコメントをつけたので、備忘録的に…


 この問題を、追い込み漁の倫理性全体の話として捉えると、話が複雑になるのではないでしょうか。
 まず、最初のステップとして、「食べる」という目的を外して「水族館展示で追い込み漁で捕獲したイルカを利用することが妥当か」ということに絞って議論するのがいいように思います。

 で、「世界動物園水族館戦略」(日本語版、PDF)というのがあります。
 このキャッチフレーズとして「メナジェリーから保全センターへ」とありまして、メナジェリーというのは、「見世物用の動物園」ぐらいの意味です。
 つまり、野生動物の入手が制限されていき、また野生動物そのものが種類も絶対数も減らしている中で、動物園・水族館の役割として「交配による種の保存」という意味が非常に大きくなっている、ということです。
 このなかで、コンスタントに野生の個体を捕獲し、補充しているイルカというのは、ちょっと特殊な状態に置かれている、ということです。

 また、「『耐久消費財』のイルカを見に行く?」という記事があります(ちょっと古いですが、今読んでも非常に有用な記事です)が、このなかでも書かれているのが、日本の水族館におけるイルカの飼育状況は、必ずしも良好なものではない、ということです。
 これは2010年の記事なので、状況が変わっている可能性もあるのですが、そもそもJAZAはこの記事のデータの元になっている「種保存委員会報告書」を(ちょっと見た感じ)ネットで公開しておらず、確認できないわけです。
 JAZAのサイトは、今回の件についても説明らしきものを掲載しておらず、組織的体力の問題もあるので一概には非難できないにしても、情報公開が非常に不十分であると言えます。

 つまるところ、朝日新聞にJAZA前会長の山本茂行氏の談話として「日本の水族館や動物園は、太地町から安くイルカが手に入れられるので、保全への取り組みを棚上げしてきた」というコメントが紹介されていますが、そこが最も大事な点であると思います。

 おそらく、日本の水族館は数がやや多すぎ(内陸の京都にまである、という …)、また商業ベースという側面が強いため、客が呼べるイルカショーをどこもがやりたがる、という過当競争の状態にあるということが問題なのです。
 なので、イルカを持つ水族館は絞り込むべきですし、そういった館には十分な育成・繁殖環境を与えられるように、公費支援も含めたなんらかの措置が行われるべきでしょう。

 今回の国際的プレッシャーというのは、そういうものとして読み込むべきなのだと思います。



【5月23日 追記】

 今回のイルカ追い込み漁に関する報道は非常に不十分なものが多いようである。
 例えば、WAZAのサイトに掲載された報告を読むと、WAZAによる会員資格停止の最終通告の前に、JAZAとWAZAの話し合いが行われて、そのときには追い込み漁の利用の停止への二年間のモラトリアムや、食用の漁と展示用の捕獲の分離が提案されたようである。
 また、他のNPOなどのサイトを見ると、これ以前にも継続的に両者や内外のNPOを交えた議論は行われていたようで、ある日突然通告されたという状況ではない。
 たとえば"「反論せぬ」JAZAに不信 "といった報道には(誰のか、という問題はあるが)なんらかの事実誤認があるように思われる。

 また、今回「WAZA は追い込み漁が残酷だとして」という報道が目立つが、当該部分はおそらく  "WAZA requires all members to adhere to policies that prohibit participating in cruel and non-selective methods of taking animals from the wild. "(訳:WAZAは全ての会員に対して、動物を野生状態から残酷および非選択的な仕方で捕獲することへの関与を禁じるというポリシーを固く求める)というところであると思われる。
 ここで重要なのはWAZAの文言は「残酷(cruel)」だけではなく「非選択的(non-selective)」という表現を並列しているところである(これはポリシーについての説明なので、JAZAの行為が、このどちらかないし両方に違反している、というのがWAZAの認識だ、ということである)。
 「非選択的」というのは、野生動物を捕獲する際は、その繁殖計画と関連付けて、必要な種類を計画的に、適切な量捕獲することが求められている、ということであろう。
 追い込み量が残酷かどうかについて反論するのであれば、この「非選択的」という部分も議論されなければいけないが、これは報道も触れていないし、日本側の関係者もほとんど触れていないように思われる。
 逆に、意識的に「非選択的」を外して、「残酷」のほうばかり強調する報道や、その理由として(イルカは)「頭がいいから」という(そもそもWAZAが言及すらしていない)理由を挙げて見せるような反応は、無用な文化的対立を煽るための議論と言わざるを得ない。

 WAZAからの勧告文の日本語訳が存在していないことなど、いずれにしても今回は、日本側のアカウンタビリティーの欠如や、報道のバランスの欠如が目立つのではないかとおもう。 

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