2013年12月1日日曜日

法務省平成25年度啓発活動重点目標とやらが酷い件

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  法務省平成25年度啓発活動重点目標
 …まぁ、政府による「人権」概念の誤用が酷いのはいつものことなのですが、一応批判しとく。

 まず、被災者を含めてすべての人の人権が守られるべきなのは当然だが、その「人権」がまがい物ではまったく意味がなくなる。まがい物の「人権」に苦しむ人々を包括的に救う力はないであろう。
 法務省の「考えよう 相手の気持ち 育てよう 思いやりの心」というキャッチフレーズは、控えめに言っても「人権を守る」とはなんの関係もなく、具体の局面では同調圧力として機能することで、人権を守ることとは対極の機能を果たすであろう(そして、様々な問題で旧態依然たる権威主義、秘密主義を残す法務省がしたいのはそういうことだ、ということなのだろう)。
 

Demonstration, WSF2005  法務省は「自己の権利のみを主張する傾向」と述べるが、「人権」とは一義的には権利請願の権利であり、「人権宣言」等から演繹される一定の拘束に従って、他の請願との優先順位や利用資源の調整をするのが「デモクラシー」である。
 従って、人権を守ることというのは、例えば「法律に違反した者、ないしはその疑いがあるもの」であったとしても「適切な医療を施される制度的な補償」のことであり、個々人の思いやりやら、相手の気持ちを忖度することではないのである。
 つまり「人権が侵害されている」というのはこういうことである↓。
 http://praj-praj.blogspot.jp/2013/10/blog-post_16.html

 被災者の問題についても、なにが「人権宣言」等から演繹される一定の拘束であるかを考えれば問題は自明である。
 原発事故の被災者であろうが、過去に犯罪を起こしたカルトのメンバーであろうが(つまり、その人物がなんらかの形で「有害である」と誰かが感じることに合理的根拠があるなしに関わらず)、居住の自由や教育を受ける自由は補償されているのであり、適切な立法措置なしにこれが侵害されることはいかなる場合でも許容されないのであり、何度も述べる通りこれは「思いやり」として(社会ないし政府によって)温情的与えられる恩恵という問題ではない。

 もちろん、感染症法のようにリスクに応じて社会参加が制限されるような法制化されるということはあり得る。
 しかし、この場合も「公共の福祉」(「公益及び公の秩序」ではない)と個々人の利益がきちんとバランスするように慎重に立法措置がなされる必要があるのであり、この立法措置のない「社会参加の制限」はいかなる場合でも人権侵害的要素を持つことは認識されなければ行けない。
 この立法の議論にさいして、もちろん疫学を含む科学は重要な要素だが、それだけではないし、ある分野の専門家が必要性や合理性を特権的に判断してはならない。

 従って、もし福島第一原発事故の被災者であるというだけで他の日本人に認められている社会的な諸権利が認められないということがあれば、それは「思いやり」の問題ではなく、(中央ないし地方)政府の責任において制度的に解決されなければ行けない問題であり、そこに議論の余地はない。

 一方、購買活動の選好を人権の問題として語ることは、「人権概念」の厳格さを損なうし、資本主義の否定でもある。
 …まぁ、後者は別にどうぞ、ということではある。
 例えば米に関する食管法が機能している場合、法定限度以下の線量であるにもかかわらず特定地域の米の購入を政府が拒んだとすれば、それは人権問題であろう。
 一方、個人がどのような要素に購入対象の魅力を見いだすかは、資本制下においては「自由である」としかいいようがない。
 もしそうでなければ、例えば「政府が輸入を許可しているのに中国産を忌避することは人権侵害」とか「政府が安全性を認可している農薬を忌避して『有機農法』と宣伝されている食品を買うことは人権侵害」という議論も成立してしまう。
 (もちろん「絆」で買うのだ、という議論はあってもよいが、これはあくまでヴォランタリーな行為として肯定されるのであり、ヴォランタリーに提供される価値は「人権」の問題ではない)

 なお、福島の産品の購買拒否に関しては「ブランド価値の低下」として認識し、その寄与率に応じて「原因」に補償請求がされるべきであろう。
 個人的にはその責任の大半は東電ないし政府が負うべきものであるのは自明だと思うが、そうでないという判断をする人が居るというのは理解する。
 ただし「風評」という言葉を使うと、鳥瞰図的な認識が吹っ飛ぶので、誰が問題に対応するリソースを負担すべきかという議論が困難になるという理由で、このワーディングを採用することに賛成はしがたい。


 

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