2017年1月21日土曜日

科学とデモクラシー: アメリカ大統領選雑感

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 バラック・オバマが大統領に就任した2009年の夏も過ぎ去ろうという頃の話である。科学技術とデモクラシーについての研究と実践を行っている、つまりどちらかというと左派系のアメリカ人に、ヨーロッパで行われたあるプロジェクトの会議で一緒になった。
 「今、そちらのシンクタンクは何人ぐらいで回しているんですか?」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。


 「実を言うと、ゼロだ。ブッシュ政権下でまったく助成金が取れなかったので、若者はすべて解雇して、年金生活者や大学教員のヴォランティアで、要するに我々が自腹を切って回している。」
 そして、帰国後わりとすぐにその人の Facebook で「財団から声がかかったので、インタビューを受けに数年ぶりにワシントンに行ってくる」という日記が掲載されていた。
 やや遅れてであるが、オバマ政権になった効果が末端まで現れ始めた、ということだったのだろう、と思う。

 2008年に参加したAAAS(全米科学振興協会)でも、ブッシュ政権下で以下に研究予算が減らされ、気候変動などに対する科学的知見が軽視されてきたかということについて、盛んに論じられていた(AAAS年会の評議会についてのブログをご覧いただきたい)。
 (ただし、このとき共和党の大統領候補だったマケイン上院議員については共和党候補であっても決して「科学軽視派」だったわけではない、ということは”AAAS年会(ボストン 2008) 3日目”の報告で述べた通りである)
 
 トランプ政権になって、再び基礎科学研究や「科学とデモクラシー」は軽視されるようになることはほぼ疑いがない。
 我が国の政権も、グローバルな問題に関してはこれに無批判に追随することも予想される。
 世界に大きな影響力を持つアメリカ合衆国が民主国家であり、健全な政権交代があるのは悪いことではないが、あまりに振れ幅が大きすぎる(基本的には各州ごとの「勝者総取り形式」の問題だと思うが)わけである。

 この状況で日本のアカデミアになにができるか、というのはもうちょっと真剣に議論してもいいと思うんだけどね…。