2016年9月8日木曜日

二重国籍によって日本国籍も公民権も失われない: 蓮舫氏をめぐる議論について

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蓮舫氏が台湾(中華民国)との二重国籍なのではないか、という問題が話題を集めている。
 この問題に関連して、菅義偉官房長官は「一般論として申し上げれば、外国の国籍と日本の国籍を有する人は、22歳に達するまでにどちらかの国籍を選択する必要があり、選択しない場合は日本の国籍を失うことがあることは承知している」と述べたとの報道もあり、問題は蓮舫氏の議員資格といった枠に収まらない部分に展開している。
 しかし、この菅氏の認識は(排外主義的な現政権の立ち位置をよく表していると思うが)、立法意図に立ち返れば誤認であるし、その誤認が現在二重国籍である、ないし二重国籍の可能性がある人々に少なからぬ恐怖感を与えるであろうことを考えれば、看過できない。

現在の国籍法は、1985年に改正されている。この時の改正は、それまで日本が父系主義(父親が日本人である場合に国籍が認められる)を採用していたのを、両系主義に切り替えるためのものである。
 一般に、国籍は一人について一つであることが好ましいとする考え方があり、これを「国籍唯一の原則」という。複数の国籍があると、どの国が保護権を持つかや、どの国の徴兵に応じるか、というコンフリクトが生じやすいためである。
 一方で、国籍の意味、国籍を認める基準(出生地主義か、血統主義か等)も国によってことなり、また流動性が高まり、国際結婚も増えた現在では、「国籍唯一の原則」は現実的ではないという意見も多く、公的に重国籍を認める国も増えてきている。

さて、日本でも、両系主義に切り替えることによって、複数の国籍を持つ日本国籍保持者の数は増えるのではないか、と予想され、その点について国会でも議論されている。
 ここでご紹介するのは、1984年8月2日の第101回国会参議院法務委員会における飯田忠雄議員(公明党・比例区)と枇杷田泰助政府委員(法務省民事局長)との質疑である(第101回国会参議院法務委員会議事録18ページ。画像はクリックで拡大できます)。

内容を要約すれば、二重国籍者が閣僚などになることを制限すべきではないかという飯田議員に対して、枇杷田局長が否定的な政府見解を説明している、ということである。
 政府見解として、日本は「国籍唯一の原則」を重視しているため、日本国籍を選択した人は国籍法で「外国の方の国籍の離脱に努めなければならないと規定」しているものの、「当該外国の国籍法の規定によって左右」される場合もあるのであり、「御本人の努力と、それから各国の法制とによってなるべく外国の国籍を早期に離脱するようにということを期待するということにとどめて」おり、それ以上を義務化することは「酷なことにもなりますので、改正法におきましても要求はしておらない」ということになる。
 したがって、現在の国籍法は「国籍唯一の原則」を尊重するものの、それが守られていないからといって日本国籍を剥奪するといったようなことはしないということであったのであり、菅官房長官の発言は誤認であろうと思う(国会会期が始まったら野党議員はこの点を国会で政府に確認をとってもらいたいと思う)。

また議論は「日本の国民全体が連帯意識を持つ、そういうような考え方の強い方が望ましい」とはするものの、「日本国籍を持っておられる方であっても、場合によっては今申し上げましたような点においては十分でない」場合もあるのであり、「二重国籍者であるからといって、当然にそういう考え方がないだろうというふうに一つのパターンを決めて法律上制限をする」のは望ましくない、とも述べている。
 そして、枇杷田局長は(画像で引用した次のページで)「日本国籍のほか他の国の国籍を有する二重国籍者が国会議員となるということも現行法上可能」であり、「それで政治上障害が起こらないという合理的理由があるかどうかということでございますが、(中略)これまでのところそういう二重国籍者が選挙権を行使する、あるいは選挙によって選ばれる、公職についたことによりまして何らかの障害が生じたという事例は承知しておらない」とも述べている。
 国際化がより進み、国際結婚が増えた現状において、この時の政府見解から後退するのは適当とは言いがたいだろう。

結局のところ、政府見解として示された「日本国籍を選んだ場合は、他の国籍の離脱に務めることが日本としては好ましいと考えているが、手続き上の困難もあるだろうから、必ずしも義務化はしない」というのは、蓮舫議員の今回のケースにも当てはまるだろう。
 蓮舫氏は、「未成年だったので父と一緒に東京にある台湾の代表処に行って、台湾籍放棄の手続きを」したが、やり取りが台湾語で行われたので、台湾語に堪能でない蓮舫氏自身が内容をきちんと把握していたわけではない、と説明している。
 これは、まさに政府見解の想定に合致するケースのように思われる。
 また、政府見解では、仮に二重国籍状態であっても、公職につけないということはないと明示しており、公民権の維持が、「国籍唯一の原則」に優越するという原則を明確に示している。

こういった前提の上で、次の選挙で有権者が説明不足と感じて蓮舫氏を落選させるとしたら、それは有権者の権利ということになろう。
 ただ、個人的には(蓮舫氏の政策にあまり共感はできないので、彼女個人が落選することには痛痒を感じないが)「二重国籍」というのが問題化されて、誰かがそれによって落選に至るというような日本ではあってほしくないものである、と思う。