2017年6月27日火曜日

「左翼によるグローバリゼーション批判は消え去ってはいない」(ATTAC フランスのドミニク・プリオンへのインタビュー)

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 「その反緊縮とあの反緊縮は一緒ですか!?」という記事に多少関連して、1990年代後半から盛り上がった左派の反グローバリーゼション、反ネオリベラリズム運動について、それが右派に簒奪されたように見えている現状について、ATTAC フランスで長らく活動を続けている経済学者のドミニク・プリオンへのインタビューを訳出してみた。
 原文は”»Left-wing critiques of globalization have not disappeared« An interview with Dominique Plihon (Attac France) | The Great Regression”。





◎ATTACは反グローバリゼーション運動最盛期の1998年に設立されました。グローバリゼーションは今日、重要な論点として帰ってきたが、それは右派の論点としてでです。大統領選挙期間中、トランプはNAFTAの正統性に疑問を表明し、マリーヌ・ル・ペンは「野蛮なグローバリゼーション」に注意するよう呼びかけていました。この「右派からの反グローバリゼーション言説」をどう考えるべきでしょうか?

ドミニク・プリオン: この展開には二つの主要な原因があります。最初に、ネオリベラルなグローバリゼーションによってもたらされた社会的及び経済的危機が、右派に利した、ということです。次に、所謂「進歩的な政府」がネオリベラルな政策を実施し、失敗したということです。フランソワ・オランドが社会主義者の理念を裏切り、それがマリーヌ・ル・ペンの躍進を助けた、というのが良い例でしょう。

◎社会的、経済的危機という点についてもう少し聞かせてください。
 理論的には、進歩的左派勢力はこの展開から利益を得られたはずです。なぜ、右派がグローバリゼーションに対する人々の怒りを独占的に管理することになったのでしょう?

プリオン: それにはいくつかの理由があります。一つは右派が人々に、危機の原因は公共支出の過剰と税制、政府の政策の失敗といったことにあると人々を信じさせたからです。もう一つの右派支配の理由は、古臭い「TINA(オルタナティヴは存在しない)」という経文(マントラ)にあります。

◎ドイツの新聞 Süddeutsche Zeitung は、「グローバリゼーションは終わったか」という問いを扱う特集を始めました。あなたはどう考えますか?

プリオン: グローバリゼーションが終わったと考えるのは誤りでしょう。私は、私たちが1サイクルの終わり、次のサイクルの始まりにいる、と表現するのを好みます。いくつかの政府(アメリカ合衆国や中国)は彼らの政策を変えつつあります。中国では、輸入に主導された成長は疑問視され始めています。米国でも「自由貿易」というイデオロギーが同様の議論にさらされています。さらに、私たちは、グローバリゼーションの主要なアクターである多国籍企業も彼らの戦略(例えば、彼らのサプライ・チェーンを小さくする、と言った)を変更しようとしているのを見ることができます。と言っても、それは彼らの「グローバルなアクター」という役割が放棄されるということではありません。
 私の視点は、フランスの歴史家フェルナン・ブローデルのものと同様、グローバリゼーションは資本主義の最初から存在した、というものです。グローバリゼーションは新しい形態を取りつつ、資本主義がある限り、今後もあり続けるでしょう。

◎先にあげた記事で、SZ紙の編集者 Johan Schloemann は「左翼のグローバリゼーション批判に何が起こったというのか? 彼らの全てが右派に移籍したとでもいうのか?」と問うています。

プリオン: グローバリゼーションに対する左翼からの批判は消えてしまってはいません。アルテルモンディアリスト運動の知識人や活動家は多くの国で依然として活発です。2016年にはモントリオールで世界社会フォーラムがあったことも、左翼の運動がまだ生きており、機能していることを証明するでしょう。これらの運動が見えても聞こえても来ない、という人がいるとすれば、それは支配的な経済的権力にコントロールされた企業メディアの力とか、あるいは右翼の反グローバリゼーション・イデオロギーの勃興、と言った諸条件によるものでしょう。しかし、もしアルテルモンディアリストの運動がいつも見えているという訳ではないとしても、それらは社会運動、自由貿易協定や租税回避に反対する動員の組織化と言ったことを下支えする重要な役割を果たしているのです。

◎いくつかのドイツのメディアで(フランスもおそらく同様だと思いますが)、ジャン・リュック・メランションは彼のEUとグローバリゼーション一般に対する批判的なスタンスのせいで「ル・ペンと同じくらい危険」と評されています。メランションに対するあなたの立ち位置はどういうものですか?

プリオン: はい、ジャン・リュック・メランションは既存の経済的・政治的秩序を変えたいと思っており、そのために支配的なブロックからは危険だと受け止められています。(メランションの政党である)France Insoumise (不屈のフランス)の目標は、政治組織を再構築し、社会的・経済的変容を組織することで民主制を回復する、ということです。これを、ル・ペンの反民主的で排外主義的な国民戦線と同一視することは、大きな間違いです。メランションの選挙運動は、彼の企てが多くの若者や中産階級の人々の熱意と繋がった、という点で大成功でした。彼が大統領選の決選投票に進出できなかったとしても、彼の選挙運動は左派に新しい根源的な政治的パワーを創り上げたるために非常に有効でした。

◎知的で進歩的なグローバリゼーション批判とは、今日いかなるものであるでしょうか?

プリオン: ネオリベラルなグローバル化を批判する一つの方法は、多国籍企業の利益のために労働者を支配すること、資本と商品の完全な流動性、国家間のグローバルな競争と言ったことを強いるグローバリゼーションそのものを、我々がひっくり返すべきだ、と言うことです。アルテルモンディアリストは対照的に、理念としてのグローバリゼーションに反対するのではなくて、競争ではなく人々と国々の連帯に基づく、労働者を支配するのでなく生産の民主的な組織化に基づく、NAFTA, TTIP, CETAといった危険な自由貿易協定ではなく、社会的・環境的目標を尊重して厳しく規制された金融システムと貿易協定に基づく、オルタナティヴな形態のグローバリゼーションのために戦うのです。

◎グローバリゼーション批判の第一波の最盛期において、多くの活動家と学者は、世界がフラットになり経済がグローバル・レベルで行われるようになり、国民国家が経済の成果に与える影響は失われていく、と論じていました。したがって、私たちに必要なことは、国家間の、より超国家的な協調であると考えられ、「グローバル・ガバナンス」がバズワードでした。この観点について、良い動きがあったかどうか、どうお考えでしょうか?

プリオン: それは現状に対する間違った捉え方だと思います。なぜなら、国家的、地域的空間はほとんどの経済的アクターに対して今日でも極めて重要な役割を果たしているからです。そして、ほとんどの人々に対しても、同様です。この事実を明確にしておくことは非常に重要です。なぜなら、もし国家的、地域的空間が重要だと言うことに同意するなら、それはあなたが、国家的、地域的空間を基礎にして、ポリシーというものを持っており、法規制というものを持っており、民主制というものを持っている、ということを示しているからです。21世紀初頭という現時点において、世界がフラットである、もしくはフラットになれると考えることは、ユートピア的であるか、少なくともミスリーディングであると言えるでしょう。
 もし今日の世界を見渡せば、また未来予測においても、ここ数年あるいは数十年という長さでは、地域レベルでは大国や国家グループが重要な役割を果たし続けるでしょう。例えば(それが危機に陥っているとはいえ)EUでは、ドイツだけではなくフランスやスペインといった、いくつかの国はより重要な役割すら果たしえます。もしアジアを見れば、中国と日本が地域で支配的な役割を果たしています。そして、時々は彼らの間に政治的な緊張が生じるとはいえ、彼らはEUがそうしているのと同様、貿易や地域の通貨政策を作り上げています。そのため、私たちがフラットな世界に住んでいるという考え方は、間違っているのです。

◎タックス・ヘヴンはグローバリゼーションを政治的にコントロールすることが失敗に終わっていることを示す、最も重要な事例であると考えられています。この状況に失望していますか?

プリオン: 今日、グローバリゼーションの政治的コントロールはまだ機能していない、というのは否定し難い事実です。しかし、もし租税回避の例を取れば、それは過剰に楽観的かもしれませんが、しかし、租税回避について考えてみれば、若干の進歩は見られるわけです。また、重要な抵抗運動が世界の各地で起こっているのを私たちは目撃しており、しかもそのいくつかは成功しているわけです。例えば、ヨーロッパでは私たちは、租税回避の問題に取り組み、いくつかの勝ち星を納めました。私たちがすでに最終的な勝利をものにした、とは考えていません。しかし、いくつかの勝ち星は得たのであり、将来もそれは可能でしょう。なぜか? 人々の意見は徐々に変化してきています。私たちの国、地域の人々は、租税回避という点から何が起こっているか、知っています。多くの負の影響があるわけで、人々はそれを知っているわけです。それは公的債務をつくりだしており、多くのお金が政府の歳入の流れに入るのを防いでもいるわけです。人々は、それが健康や教育やその他の問題に公的な資金を当てる最大の障害がそれだということを知っているわけです。それは彼らを怒らせています。誰がこの租税回避から利益を得ているでしょうか? 富裕層と多国籍企業です。一方で、中間層や労働者は税金の支払いから逃れることはできません。公的な怒りは多くの国々で膨らんでおり、これは将来、私たちがより効果的に租税回避問題と戦うことを助けるでしょう。
 したがって、私たちが正しい方向に努力するなら、時間はかかるでしょうが、私たちが勝利するでしょう。もしCETAやTTIPのような自由貿易の問題についてみてみると、状況は異なっているでしょう。私たちは、今のところいかなる勝利にもたどり着いていません。人々の多数は自由貿易協定に強く反対しているにもかかわらず、エリートと経済的な権力は同時にこれを前に進めようとしています。にもかかわらず、私たちが過去に見たように、それらの協定はとても危険なものであるという事実から、将来、公共的な意見と社会運動が勝利を獲得すると考えています。

◎NAFTAへの憂慮に関して、奇妙な展開があったと言えるのではないでしょうか? それに反対し、メキシコの農家にとって良くなく(それは潜在的に移民の引き金を引き得るのだ)、また米国の鉱業労働者にとっても良くない(それは潜在的に排外主義的な怒りの引き金を引き得るのだ)と論じていたのは普遍主義的な左派でした。今、トランプが、メキシコや正体不明の権力がNAFTAを米国に押し付けたのだとでもいうように振舞っています。この視点の変化をどう説明できるでしょうか?

プリオン: NAFTAはそれぞれの政府の支援を受けた米国とカナダの多国籍企業によって勧められました。三ヶ国の経済エリートも関わっています。最初から私たちは、NAFTA が三ヶ国の労働者の多くを相互に対立させるだろうと知っていました。なので、現在、保護主義的、排外主義的な政治勢力がNAFTAがつくりだした社会的災害から利益を得ているのは驚くべきことではありません。

◎ATTAC はフランスで今、何をしていますか?

プリオン: 私たちが今取り組んでいるアクションの一つは、市民的不服従の呼びかけを進めることです。私たちは例えば、銀行やマクドナルドのような税金を払っていない多国籍企業に入り込みます。そこで、デモンストレーションをしたり、メディアの興味を引くように窓にペインティングしたりし、そうすることによってより多くの公衆の注目を、租税回避の問題に集めようとしています。世論はこれらのアクションを支持しており、私たちをそのことで批判したりはしません。政府や多国籍企業といった政治勢力は、今や租税回避に抗議する世論の動員について、考慮に入れざるを得なくなっています。

◎これまでの間、ATTAC は合算課税を支持してきました。そういった税方式のメリットはなんですか?

プリオン: 合算課税は、多国籍企業に、彼らの実際の活動があった場所で税を支払わせることによって、租税回避を減らす効率的な方法です。