2015年5月18日月曜日

ふたつの貧困: 大阪市廃止(大阪都構想)住民投票結果について

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 大阪市廃止(大阪都構想)住民投票は、賛成694,844票、705,585票、その差0.8%程度という実に僅差で否決された(大阪市の結果発表)。
 

 出口調査の結果(朝日新聞)で見ると、

とくに賛成した人が多かったのは20代(61%)と30代(65%)。40代(59%)、50代(54%)、60代(52%)も賛成が過半数を占めた。一方、70歳以上は反対が61%で賛成を上回った。

 とあり、年齢が上がるに従い、反対が増える。ただし、これは当日の出口調査の結果であり、36万人とも伝えられる期日前投票の内訳は不明である。
 実に有効投票数の四分の一が期日前投票を選択するというのが好ましいことかどうかは議論する必要があるが、期日前でも積極的に投票しようという層が増えたことは好ましいだろう。
 また、正確にはわからないが、報道などを総合すると、当日の投票は若干賛成が上回っていて、逆に期日前投票は反対が上回っていたのではないかと予想できる。

 全体的に見れば、商業地区である北区や中央区などで賛成が多く、南部で反対票が多かった。
 これを持って、大阪の「南北格差」問題を指摘する分析もあるが、これは先に述べた年齢の関数である可能性が高いように思う。
 北部は新興の住民が多く、平均年齢も若いのに対して、南部は昔からの住民が多く、高齢化も進んでいるからである。
 また、得票差は、一番高い北区と一番低い大正区の間でも15%程度に収まっており、南北で世論が二分されたという状況ではないように思われる。
 このあたりを票にしたのが以下のものである。



 賛成率は大阪府の発表から(賛成票を賛成票+反対票で割ったもの)。
 65歳以上の比率は平成22年の国勢調査のものを利用した。

 また、区ごとの平均年収についても比較のために掲載しているが、データとして、区ごとのもので最近のものが見つからなかったので、ゆかしメディアのものを利用した。
 算出法が明示されていないので、データとしての信頼性は若干おちるものとしてご理解いただきたいが、実感には合致する数字ではないかと思う。

 なお、賛成率と高齢化率の相関係数は -0.68 で、かなり関連度はたかそうである。
 また、賛成率と年収の相関は 0.33であり、年齢より相関は低い(用いたデータで、年収と高齢化率の相関は-0.73。ただし、特異値っぽい西成区を外すと -0.53である)。
 従って、賛成率と関連しているのは高齢化率であり、他の報道と総合しても、投票先を決める大きな要因は年齢である、と考えたほうがよさそうである。
 
 とはいえ、出口調査の結果も各年齢層で大きく違うとも言いがたく、「おおくの有権者がそれぞれの頭で考えて、なお結果が拮抗した」住民投票であったと言えるだろう。
 そのこと自体は、日本で民主制が根付くための重要なステップの一つであったと評価することは可能かと思う。

 年齢階層ごとに、所得や生業で投票先を調べられればより興味深いだろうが、それはなかなか難しい(出口調査のデータがもう少し見られると面白いのだが…)。
 個人的には、30代40代の都構想支持も、金融関係者などネオリベラル経済によって利益を得ている高所得層と、プレカリアート・ニート層で支持が高く、安定した雇用を得ているサラリーマンや持ち家自営業といった層では支持が低いのではないか、ということが予想できる(例えば同じ高所得エリアでも、北区や中央区で支持が高く、天王寺のよううな古くからの富裕層が多いエリアで支持が低いことからも、これは言えるだろう)。
 特に、プレカリアート、ニート層は既存政党への不信感が高く(常勤雇用者中心の労組に支持される民主党に対して特に失望が深く)、リスクは高くても社会体制のガラガラポンを望むという姿勢が、大阪維新の会支持に回っている、みたいなことは、実証的には言えないにせよ、想像は可能である(維新を支持しているネオリベラル勝者については、まぁ、適当にしておいていただくということで…)。
 こういった不満を、福祉国家の枠組みに接合させるための社会改革は、中道から左派の政党にとって重要であろう。

 先に述べた通り、高齢化率が高いことと、所得が低いことには一定の関連がある。
 基本的には、高齢者の貧困というのは、明確であるということだが、一方ではこの層は既存政党(共産、公明)と繋がりがあり、その不満はある程度解消されている、ということである。
 一方で、既存の政治勢力にとって、プレカリアート的な(都市化して、人的ネットワークが失われたエリアの)貧困は見えづらいものである。
 これらの層に、維新の改革案が有益なものだとはとても思われないが、一方で既存の左派政党がこの問題を十分に捕捉できていない(と、少なくとも当事者から認識されている)とすれば、支持が維新に流れるのは一定仕方がないと言える。
 まったく希望がないよりは、それ以上は悪くならないとすれば、1割でも希望があるほうにかけたほうがマシなのは自明であろう。
 この第二の貧困の問題は、今回の住民投票の結果に単純に喜べない理由であり、一応の勝利を収めた既存政党側が、「僅差」であるという事実を謙虚に受け止め、取り組んでいかなければいけない課題であろう。



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