2016年7月7日木曜日

参議院議員選挙2016 科学技術政策公開質問状

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今回の参議院選挙でも、科学技術研究に関わる論点について、各党に質問状を出している(Science Talks 参議院選挙にむけた各政党への科学技術政策公開 参照)。
 今回は、これまでのサイエンス・サポート・アソシエーション主体から、サイエンス・トークが主体を担うという形式になっている。
 そのためもあって、多少質問の傾向は変わっていると思う(前回までとおなじ質問もある。2014年衆議院選挙 科学技術政策公開質問状 参照)。
 全体を読むのも大変だと思うので、内容を私見に基づいて整理させていただきたいと思う(「自分の目で判断したい』人は是非上記サイトにあたっていただきたい。以下はすべて春日個人の責任に帰する、春日個人の見解である)。



 全体的な印象としては、共産党が(毎回そういう評価になってしまうが)一般的な研究者コミュニティが要求する「大学および研究政策」という意味ではほぼ満額回答であろう。予算面に関しては実現可能性という疑念もあるが、少なくとも大学の自主性への信頼をベースに、事務手続きを簡略化し、過度に競争的でなく、安定した研究が行える環境ということの必要性について、最も理解がある。特定の「軍事研究がしたい」という特殊な関心を持っている研究者以外は、共産党の回答が最も満足度が高いであろう。また「科学とは、一国の利益のためにのみあるものではない」という古典的な科学観をもっている科学者や有権者全般にとっては、共産党は事実上唯一の選択肢に見える。一方、野党第一党である民進党は、通り一遍の回答にはなっているが、あまり科学技術政策に対する関心が高いとは言いがたい。
 自由民主党(以下、自民党)と公明党の与党二党は、基本的には現在の政策を説明していることになるので、そう大きくは違わないが、公明党のほうが若干ソフトに、つまり研究者コミュニティの安定と自立に配慮した回答になっている。
 「日本のこころを大切にする党」(以下「こころ」)は独自性が高く、また関心が高いことも伺える一貫した科学技術政策を持っている。これは実は前進の「たちあがれ日本」時代から一貫している。私の政治的ポジションからは受け入れがたい主張も多い政党であるが、科学技術政策については興味深い視点を提供してくれていると評価してよかろうと思う。おおさか維新(以下、維新)は、「費用対効果から評価する」という視点で一貫している。90年代以降、こうした要請は大学にも及び、そのために事務作業も増大している、というのが大方の研究者の感じているところであり、維新の影響力が増大することは、研究者コミュニティからするとあまりうれしくない(日本の大学の、研究におけるプレゼンスも相対的に低下することは間違いない)、ということを感じさせる結果である。もちろん、維新人気の背景には「政府は費用対効果をまったく考えない」という一般有権者の理解があるのであり、「科学」の価値とその評価(の難しさ)について、丁寧に説明していく必要性を再確認するためにも、こういった意見があるということは肝に銘じるべきであろう。

 設問すべてを詳細に分析する時間はないが、簡単に見ていこう。
最初は、政府の研究開発投資について述べたもの。詳細は省くが、日本は伝統的にここが弱いと言われ(そのぶん、民間企業が比較的潤沢に研究開発費を投入していた)、90年代の半ばに科学技術基本法が施行されてから若干改善されたが、まだ他の諸国に比べて弱い分野であると言われている。
 これについて、現状が適切だと答えているのが自民党、公明党、民進党であり、増額を主張しているのは共産党と「こころ」である。維新は自由回答欄に「増額を検討すべきだが、費用対効果の精査が必要」としている。
 ここから明らかなように、比較的「科学技術」に前向きなのは共産党と「こころ」で、この二つの党は科学技術政策に独自の視点を持っているように見受けられる。ただし、その方向性は間逆であり、共産党が「科学者共同体の自由により人類全体の反映を目指す」という古典的な科学観に忠実になろうとしているように見える一方、「こころ」は経済復興と国益のための科学、という方向性を打ち出している。「維新」もやや「こころ」に近いが、「こころ」ほどこの問題を精査していないように見える。与党が現状を「適切である」と応えるのはいわば当然だが、民進党が独自の視点を打ち出せていないように見えるのは、野党第一党としてやや残念である。

 第二問は研究開発が競争的にすぎ、研究費が安定しないことや申請そのものに関わる事務負担によって、研究者が疲弊し、肝心の研究そのものが衰退しているのではないか、という指摘についての設問である。これに対して、競争的資金という方向性は強化しつつ、事務手続きの改善やそれに関わる事務機能の強化のための予算といった方向で措置しようとしているのが自民、こころである。民進、公明は問題としては認識しているようだが、特に具体的な方向性は示していない。基盤経費の増額といった、競争から安定へという部分を重視しているのが共産党である。また、(人件費や事務経費などの)「経常費の更なる削減と研究資金の充実」と回答しているのは維新である。維新の意見が通った場合、大学現場は更なる負担にあえぐことになりそうだと思わざるをえない。
若手ポストに関する設問は、設問事態がやや複雑なので、分析は難しいが、ここでも維新が「安定性を重視し過ぎると、容易に既得権益化するおそれがある」と述べているのが印象的である。他の党は総じて雇用問題には同情的である。共産党は常勤枠の拡大を打ち出しているが、ほかは全般的に流動性と公平性の拡大、というところを落とし所と考えているようである。
近年、学術誌の電子化と高騰により、多くの大学で必要な学術誌が購入できないという問題が発生しており、大学側の対応として、所属する研究者は執筆した論文を大学のデータベースに掲載する、という「オープン・アクセス」が求められるようになってきた。これに関しては「こころ」が明確な義務化を主張している以外は、各党模様眺めという感じである。
大学の統廃合に関しては維新が「納税者の理解を得るため」として最も積極的である。自民と「こころ」も「統廃合を含めた改革」が必要だとしている。民進は「丁寧な議論を」としている。共産党は「政府主導の再編・縮小ではなく、大学の自主的な改革の努力」が必要、としている。そんなことが本当に可能だと考えているとしたら、ここが共産党の最も夢想的なところといえるかもしれない。最も、公明党も表面的には「大学の自主改革」を主張しているが、これはすでに行われている通り、中期計画の策定など、たぶんに政府の誘導がかかった「自己改革」である。
スーパーグローバル大学創生支援などのグローバル化については、さらなる予算措置を主張するのが自民党、民進党である。共産党もさらなる予算措置を主張しているが、スーパーグローバル大学創生支援には反対であるとしたうえで、ランキングなどにこだわった大学ごとの支援ではなく、留学の機会を広げるなどの支援が必要だとしている。公明党は「その他」としたうえで「大学のガバナンス改革」の必要性などを前提としたうえでの予算措置を主張している。
 こころは、「各大学の自助努力」と回答したうえで外国人教員数などの指標で評価せずに、各大学によって多様な「グローバル化があると主張している。維新はグローバル化はすすめるべきとしたうえで「費用負担のあり方については、設問のような択一式では決めがたい」としている。
しばらく前に話題になった「人文社会系の削減や改組」についても、公明党は大学の自主性に任せるとしており、民進党も大学の内部の議論によるとしている。共産党は明確に反対と述べている。自民党は「人文社会科学研究が日本の将来を左右する程、価値の高い研究と認識している」としたうえで、「組織見直し計画」を求めている(つまり、人文科学の価値の評価は短期的にできない、という批判は無視している)。維新は無回答、「こころ」は「人文社会・教育の分野については、もっと早くメスを入れるべきだったと思う」と述べている。
軍事研究に関しては、推進を選んだのは自民とこころ、反対を選んだのは民進、共産である。
 公明は「その他」を選んだ上で、「各大学の自主的な判断」としている。
 維新は「その他」を選んだ上で、「一概に否定されるべきではない。ただし、予算措置については費用対効果の厳しい精査が必要である」と述べている
科学コミュニケーションに関しては、民進、公明、共産、維新が積極姿勢をとっている。こころは「科学コミュニケーション人材の要請と公的機関への配置」のみを選択している。自民党は「その他」を選んだ上で「官邸の政治決定と科学的助言の機能強化やリスクコミュニケーションの 充実を図る」といったことを上げており、ややトップダウン偏重な印象を受ける。