2016年5月22日日曜日

ノーベル賞は誰が取るのか? 安定、自律、予算

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朝日新聞の記事「ノーベル賞、45歳までの業績が大半」 科学技術白書 の件。
 科学技術白書の分析を読んでみて、やや違和感を感じたので、白書の票を表計算ソフトに突っ込んで、研究が行われた年代でソートしてみた(表計算ソフトでの単純計算なので、誕生日とか勘案していない都合上、前後1年の誤差はあるかもしれません)。
※クリックで大きい表が開きます


こうしてみると、ポイントになるのは白書が述べるような、「全員が20代から30代に任期付きではない安定したポストに就いていた。」という話ではない気がしてくる(片手間に表を作って、それを見ただけの感想なので、実際にこういうことなのかはもう少し調査研究する必要がありますが…。まぁ、メモ程度のものを公開ということで)。

・「ノーベル賞受賞者の平均年齢が30代で多い」というのは、企業での研究者と理論物理が平均を下げているからであって、それ以外(理論物理以外の大学での研究)だけ見ると、40歳以上も意外と多い。諸外国の平均と比べれば高年齢かもしれないという気はする(要検証)。

・京都大学の理論物理学系は例外的な動きをしているように見える。おそらく、日本唯一の「センター・オブ・エクセレンス」であると称される通り、ここでの業績は国際的に流通しやすいのかもしれない。分野的に、研究資金の多寡にあまり左右されないという面も大きいかもしれない。

・それ以外を見ると、日本の復興期の研究(70年代まで)は基本的に海外で行われている。この時期の受賞者のほうが、若干若いように見える。理由としては、海外で研究すれば知られやすいというのと、研究資源が日本と桁違いだったというのと、若手でも自由にやれる(PIである)というのがあるだろう。たぶんポジションとしては南部氏以外は所謂テニュアではない(帰国したときに安定した仕事が保障されていたかどうかまでは分からない。ライフヒストリー的な調査があるといいように思う)。

・80年代以降、日本国内でもノーベル賞級の研究ができるようになってきたように見える。ただし、この時期の受賞者は基本的に教授である(天野氏は「教授とセット」)。なので、年齢も相対的に高い。

 したがって、検証として調査されるべきは、70年代までに海外で研究を行った(化学賞、生理学・医学賞の)受賞者に、国内となにが違ったかということを聞き取ることであろう。
 また、80年代以降の研究に関しては、30代の研究者が自律的に(自分で研究計画を立て、資金を調達し)研究を遂行する環境が整っていれば、もう少し研究が前倒しできたのではないかとか、(ノーベル賞だけが目的になるべきとも思わないが)優れた研究が出やすいのではないか、ということを議論する必要があるかもしれない。
 何れにしても、「自由度と資金のバランス」というところは重要であり、安定していればいいというものでもないように思われる。

 90年代に行われた一連の大学改革によって、80年代に日本の大学で研究を行い、受賞に至った人々が、どのように研究環境が変わったと感じているかというのも重要な問題かもしれない。
 大学改革以後に関しては、どうしてもノーベル賞がでるまでの時間のギャップがあるので難しいが、iPSとカミオカンデという、予算面では比較的(例外的に)優遇されている研究機関から出ているので、これをもって「日本の科学研究は今後も安泰」というのは難しいかもしれない。


リンク
 平成28年版 科学技術白書